2026.09.15
今年のインフルエンザは、なぜこんなに早い?
―国内外の流行状況から考えてみました
こんにちは。おだこどもアレルギークリニックの尾田です。
今年は、例年とは少し違うインフルエンザシーズンになっています。
日本では通常、インフルエンザは秋から冬にかけて流行します。しかし今年は、8月から増え始め、8月下旬には全国的な流行開始の目安を超えました。
当院でも9月11日から今シーズンのインフルエンザワクチン接種を開始しました。
「なぜ今年はこんなに早いのだろう?」
今回は、国内外の流行状況や最新のウイルス情報を調べながら、現在分かっていること、まだ分からないことを整理してみたいと思います。
今年の流行は、どのくらい異例なのでしょうか?
国立健康危機管理研究機構(JIHS)の発表によると、2025/26シーズンは2025年第39週に全国の定点当たり報告数が1.00を超え、流行開始となりました。
一方、2026/27シーズンは2026年第34週、つまり8月17日~23日の週に1.11となり、流行開始の目安を超えています。
つまり、単純に前年と比較すると、今年は約5週間早い流行開始です。
さらにJIHSによると、感染症法が施行された1999年以降では、2009年に次いで2番目に早い流行入りとなっています。
ただし、ここには一つ注意点があります。
2025年第15週から、インフルエンザの発生状況を把握するサーベイランスの方法が変更され、現在は急性呼吸器感染症(ARI)定点による新しい方式になっています。
そのため、特に2009年など、旧方式で調査されていた過去のシーズンとの比較には注意が必要です。
一方、2025/26シーズンと2026/27シーズンはいずれも新しい方式で測定されているため、「前年より約5週間早い」という比較については、この変更そのものによる影響は大きくありません。
今年は「H1N1」が主流です
今年の流行で特徴的なのが、A型インフルエンザのH1N1pdm09が非常に多いことです。
JIHSの病原体サーベイランスでは、2026年第31~35週の5週間に検出された37例のうち、36例(97%)がA(H1N1)pdm09でした。H3N2は1例(3%)でした。
H1N1pdm09という名前を聞くと、2009年の「新型インフルエンザ」を思い出す方もいらっしゃるかもしれません。
確かに現在のH1N1pdm09は、2009年に世界的な流行を起こしたウイルスの系統を引き継いでいます。
ただし、現在流行しているH1N1は、2009年当時のウイルスそのものではありません。
その後、長い年月の中で少しずつ遺伝子や抗原性が変化してきた、現在の季節性インフルエンザウイルスです。
したがって、「2009年と同じような危険なウイルスが再び流行している」と考えるのは適切ではありません。
では、なぜ今年はこんなに早いのでしょうか?
現時点では、「これが原因です」と一つに決めることはできません。
むしろ、いくつかの条件が重なった結果と考えるのが自然です。
① 東アジアでもH1N1の流行が起きていた
今年は日本だけで突然インフルエンザが発生したわけではありません。
香港、台湾、タイなどでも、夏から初秋にかけてH1N1pdm09の活動が目立っていました。
日本感染症予報協会の第3報でも、香港・台湾・タイでH1N1pdm09が優勢となっていることが紹介されています。
夏休みには国内外で人の移動が増えます。
そのため、流行地域から別の地域へウイルスが持ち込まれる機会が増えることは十分考えられます。
ただし、
「台湾や香港から日本に持ち込まれたことが、今回の日本の流行の原因である」
とまでは、現在のデータから断定できません。
あくまで、流行が成立する条件の一つになった可能性がある、と考えるべきでしょう。
② 夏休みの終わりと学校再開
インフルエンザは、人と人との接触が増えることで広がります。
夏休み中は学校での子ども同士の接触が減りますが、新学期が始まると、再び多くの子どもたちが同じ空間で過ごすようになります。
すでに地域にウイルスが存在していれば、学校再開によって感染がさらに広がることは十分考えられます。
つまり、
学校再開が今回の流行を「始めた」というより、すでに存在していた流行を「増幅させる」役割を果たす可能性がある
という理解が適切です。
実際、日本感染症予報協会の第3報でも、夏休みに広い地域へ運ばれたウイルスが、9月の学校再開後に子ども同士の接触を介して家庭や地域で増幅される可能性が示されています。
③ ウイルスそのものも少しずつ変化しています
インフルエンザウイルスは、毎年少しずつ変化しています。
現在流行しているH1N1pdm09はD.3.1、D.3.1.1という系統が中心となっています。
こうしたウイルスの変化によって、過去に感染した人の免疫や、以前のワクチンによって得られた免疫との関係が変わることがあります。
そのため、
「去年インフルエンザにかかったから、今年は大丈夫」
とは必ずしも言えません。
日本感染症予報協会の第3報でも、2024/25シーズンに感染した人であっても、現在のH1N1に再感染する可能性があるとしています。
「今年のワクチンは、もう流行しているウイルスに合っていない」の?
これは、少し誤解されやすいところです。
結論から言うと、「今年のワクチンは現在流行しているH1N1に全く合っていない」という状況ではありません。
WHOは2026/27シーズンの北半球用ワクチンについて、H1N1成分をA/Missouri/11/2025類似株とすることを推奨しました。
日本で2026/27シーズンに使用されるワクチン株は、
- A/Switzerland/6849/2025(H1N1)
- A/Michigan/105/2025(H3N2)
- B/Tokyo/EIS13-175/2025(B/Victoria系統)
です。
JIHSのページは2026年6月2日に更新されており、これらの3株が掲載されています。
さらに、日本感染症予報協会の第3報では、現在流行しているH1N1の流行株と、2026/27シーズンの国内ワクチン株は同じD.3.1系統に属し、現在の流行株を良好に認識すると報告されています。
もちろん、インフルエンザワクチンは感染を100%防ぐものではありません。
しかし、
「流行が早いから、今年のワクチンを打っても意味がない」
ということではありません。
では、この冬はどうなるのでしょうか?
ここが、今の時点では一番難しいところです。
今年はあまりにも早く流行が始まったため、
「このまま秋に大きなピークを迎えて終わるのか」
「H1N1が冬まで流行し続けるのか」
「秋のH1N1のあとに、H3N2やB型が加わって、もう一度流行するのか」
まだ分かりません。
日本感染症予報協会の第3報では、当面はH1N1pdm09が主流のまま流行が続くと予想される一方、その途中でH3N2が流行するのか、H1N1だけで終息するのか、B型が出現するのかについては、今後の経過を見る必要があるとされています。
私自身は、この予報を読んで、
「今回の流行が早かったという事実だけで、この先の展開を予測するのはまだ早い」
という印象を持ちました。
考えられるシナリオとしては、
- 秋にH1N1がピークを迎え、そのまま減少する
- H1N1の流行が秋から冬まで長く続く
- 秋にH1N1が流行したあと、冬にH3N2やB型が加わる
などがあります。
今後のウイルスの型・亜型の変化を見ながら判断していく必要があります。
では、インフルエンザワクチンはいつ打つのがよいのでしょうか?
今年は流行開始が早いため、例年より早めの接種を考えることには十分な理由があります。
特に、日本では13歳未満のお子さんは2回接種が基本です。厚生労働省も、13歳未満は2回接種としています。
2回接種の場合、1回目と2回目の間隔を確保する必要があります。
そのため、今年のように早い時期から流行が始まっている場合には、
「2回目まで含めて、いつ免疫をつけられるか」
という視点が重要になります。
一方で、
「早ければ早いほど良い」
というわけでもありません。
インフルエンザワクチンによる免疫効果は時間とともに低下する可能性があるため、流行の時期と接種時期のバランスを考える必要があります。
米国CDCも、2026/27シーズンについて、1回接種でよい人は原則9~10月の接種を推奨する一方、2回接種が必要な6か月~8歳の小児では、2回目を10月末までに終えられるよう、1回目を早めに接種することを推奨しています。これは米国の指針であり、日本の接種スケジュールを直接規定するものではありませんが、今年のような早期流行を考えるうえで参考になります。
「今年は早い=今年の冬は大流行」ではありません
今回のインフルエンザ流行が例年よりかなり早いことは間違いありません。
ただ、
「早く始まったから、必ず冬に過去最大級の流行になる」
とは言えません。
インフルエンザの流行は、
- どのウイルスが主流になるか
- どれくらいの人が免疫を持っているか
- ウイルスの抗原性がどのように変化するか
- 人の移動や接触がどの程度増えるか
- 学校などでどのように感染が広がるか
など、さまざまな要因で決まります。
だからこそ、今の段階では「今年は大変な年になる」と決めつけるよりも、例年より早く始まったことを踏まえて、少し早めに備えておくという姿勢が現実的だと思います。
私が今年、特にお伝えしたいこと
今回のインフルエンザについては、
「怖がりすぎない。でも、例年と同じだと思って油断もしない。」
このくらいのバランスがよいのではないかと思います。
今年はすでに8月から流行が始まっています。
特に、
- まだインフルエンザワクチンを接種していない
- 2回接種が必要なお子さん
- 乳幼児
- 基礎疾患があるお子さん
- 家族に重症化リスクの高い方がいる
- 人との接触が多い環境で生活している
といった場合には、今年は例年より少し早めにワクチン接種について考えてよいでしょう。
そして、ワクチンだけですべてを防げるわけではありません。
手洗い、換気、咳エチケット、体調が悪いときには無理をして登園・登校しない、といった基本的な対策も大切です。JIHSもこうした基本的な感染対策とワクチン接種を推奨しています。
インフルエンザは、これからしばらく私たちの身近な感染症として続いていくと思います。
当院でも、最新の流行状況を確認しながら、お子さんとご家族が安心して冬を迎えられるよう、診療にあたっていきたいと思います。
今年は少し早めに、でも必要以上に怖がらずに。
そんな気持ちで、これからの流行を一緒に見ていきましょう。
参考資料
- 国立健康危機管理研究機構(JIHS)「IDWR 2026年第35号<注目すべき感染症>インフルエンザ」2026年9月11日発行。
- 国立健康危機管理研究機構(JIHS)「インフルエンザワクチン株」2026年6月2日更新。
- World Health Organization (WHO), Recommended composition of influenza virus vaccines for use in the 2026–2027 northern hemisphere influenza season, 27 February 2026.
- Centers for Disease Control and Prevention (CDC), Interim Clinical Considerations for the Use of Seasonal Influenza Vaccines in the United States, updated September 1, 2026.
- 日本感染症予報協会「インフルエンザ流行予報 第3報―2026年9月、A(H1N1)pdm09による早期流行が始まりました―」2026年9月13日発行。