2026.09.18
インフルエンザワクチン、「注射」と「フルミスト」、どちらを選ぶ?
インフルエンザワクチンには、注射するタイプだけでなく、鼻に噴霧する「フルミスト」も加わり、選択肢が増えました。さらに、注射のワクチンにも「チメロサールフリー」という製剤があります。
「どれを選べばいいの?」
「フルミストのほうが効果が高いの?」
「チメロサールは入っていないほうが安心?」
今回は、それぞれの違いと、どのような場合にどのワクチンを考えるとよいのかを、できるだけわかりやすく整理してみます。
📋 まず結論だけ知りたい方へ(目安)
| 生後6か月〜2歳未満 | 不活化ワクチン(注射) |
| 2〜18歳の健康なお子さん | どちらも選択肢 |
| 注射を強く嫌がる/回数を減らしたい | フルミストを検討 |
| 喘息・喘鳴/免疫不全/妊娠中 など | 不活化ワクチンを基本に |
※詳しい判断基準は本文でご説明します。あくまで目安です。
1. 「注射」と「フルミスト」は何が違う?
現在、日本で小児に使用されているインフルエンザワクチンには、大きく分けて2種類あります。
一つは、これまで広く使われてきた不活化インフルエンザワクチン(IIV:Inactivated Influenza Vaccine)です。注射で接種します。
もう一つが、経鼻弱毒生インフルエンザワクチン(LAIV:Live Attenuated Influenza Vaccine)、商品名「フルミスト点鼻液」です。フルミストは、弱毒化したインフルエンザウイルスを鼻の中に噴霧する「生ワクチン」です。鼻の粘膜で弱毒化されたウイルスが増殖することで、自然感染に近い形で、鼻の粘膜における局所免疫や全身の免疫を誘導することが期待されています。
| 項目 | 不活化ワクチン(注射) | フルミスト(経鼻) |
|---|---|---|
| 対象年齢 | 生後6か月以上 | 2歳以上19歳未満 |
| 接種方法 | 注射 | 左右の鼻に0.1mLずつ噴霧(計0.2mL) |
| 接種回数 | 13歳未満:原則2回 13歳以上:原則1回 |
年齢にかかわらず1シーズン1回 |
2. 「チメロサールフリー」は何が違う?
チメロサールは、ワクチンの保存剤として使用されてきた成分です。チメロサールにはエチル水銀が含まれていますが、魚などに含まれることで知られるメチル水銀とは異なります。
チメロサールについては、これまで「ワクチンに含まれる水銀が子どもの発達に影響するのではないか」という心配が議論されてきました。しかし、2026年にWHOが公表した2010〜2025年の研究を対象としたレビューでは、方法論的に質の高い研究からは、ワクチン、チメロサールを含むワクチンと自閉スペクトラム症との因果関係を支持する証拠は認められていません。
したがって、「チメロサールが入っているワクチンは危険なので避けなければならない」ということを支持する科学的根拠はありません。一方で、「できればチメロサールを含まないものを選びたい」というご希望がある場合には、チメロサールフリーの製剤を選択することはできます。基本的には、どちらも不活化ワクチンであり、ワクチンとしての仕組みが大きく違うわけではありません。
3. よくある疑問
💬 フルミストのメリットは?
最大のメリットは、やはり注射の痛みがないことです。「注射がどうしても苦手」「毎年接種を嫌がって大変」というお子さんにとっては、大きな選択肢になります。また、日本ではフルミストは1シーズン1回でよいため、13歳未満のお子さんでは、不活化ワクチンを2回接種する場合と比べて接種回数が少なくなります。ただし、生ワクチンであるため、接種にあたって注意が必要な場合があります(後述)。
💬 フルミストのほうが効果が高いの?
ここは誤解されやすい点です。「鼻から入れる生ワクチンだから、自然感染に近く、注射より効果が高いのでは」と思われるかもしれませんが、現時点でフルミストが不活化ワクチンより明らかに優れているとはいえません。日本小児科学会も、2歳以上19歳未満では両者の間にインフルエンザ罹患予防効果の明確な優位性は確認されていないとして、同等に推奨しています。流行するウイルスの種類や抗原性、年齢、シーズンなどによっても効果は変わります。
4. 2025/26シーズン、日本の子どもではどうだった?
2025/26シーズンには、日本の16施設で、発熱して入院した小児を対象に、インフルエンザワクチンの有効性を調べた研究が行われました。1,033人を対象とした研究で、検査陰性対照群723人のワクチン接種状況を見ると、不活化ワクチンを接種していたのは274人(38%)、フルミストを接種していたのは35人(5%)でした。
インフルエンザA型に対する調整済みワクチン有効率は以下の通りです。
| ワクチンの種類 | 調整済み有効率(95%信頼区間) |
|---|---|
| 不活化ワクチン | 43%(15〜62%) |
| フルミスト | 81%(15〜96%) |
⚠️ 一見すると「フルミストのほうがよく効いた」と思うかもしれませんが、慎重な解釈が必要です。フルミストを接種していた子どもの数が35人と少なく、信頼区間もかなり広くなっています。そのため、この研究だけから「フルミストのほうが不活化ワクチンより優れている」と結論づけることはできません。研究者も、比較効果については今後さらにデータを蓄積する必要があるとしています。なお、インフルエンザB型については、この研究ではいずれのワクチンでも統計学的に有意な予防効果は確認されませんでした。
つまり、2025/26シーズンの日本のデータから言えることは、「フルミストでも一定の予防効果が確認された」ということであって、「フルミストのほうが注射より優れている」ということではありません。
5. 2024/25シーズンの日本ではどうだった?
フルミストが日本で実際に使用され始めたのは2024/25シーズンからです。そのため、日本ではまだフルミストの実臨床でのデータが十分に蓄積されているとはいえません。2024/25シーズンにはフルミストの使用率そのものがまだ低く、注射の不活化ワクチンとの比較を十分に行うには、接種者数が少ないという問題がありました。
今後、フルミストを使用する子どもが増えてくることで、日本の流行状況における有効性や、不活化ワクチンとの違いについて、より詳しいことが分かってくると考えられます。海外でも、シーズンや流行株によって、経鼻の生ワクチンと注射の不活化ワクチンの効果の比較結果は異なっています。
なお、2026年に報告されたKitanoらの研究では、米国の2〜17歳を対象に2022〜2025年のデータが解析されています。これは日本のデータではありませんが、海外でもワクチンの種類による効果がシーズンによって異なりうることを考えるうえで参考になる研究です。
6. フルミストは「生ワクチン」だからこそ、接種できない場合があります
フルミストは生ワクチンです。そのため、不活化ワクチンとは異なり、誰にでも接種できるわけではありません。日本小児科学会では、以下のような場合には不活化ワクチンを推奨しています。
⚠️ 以下に該当する場合は不活化ワクチン(注射)を推奨
・2歳未満
・19歳以上
・免疫不全状態にある場合
・免疫抑制治療を受けている場合
・無脾症
・妊娠中
・ゼラチンアレルギーがある場合
・その他、フルミストの接種に注意が必要な状態
また、喘息や喘鳴があるお子さんでは注意が必要です。特に2〜4歳で喘鳴の既往がある場合には注意が必要です。海外では、2〜4歳で喘息または喘鳴の既往がある場合、フルミストは推奨されていません。一方、5歳以上の喘息については、海外では一律の禁忌という扱いではなく、注意して判断する位置づけです。日本でも、日本小児科学会は特に喘息患者では不活化ワクチンを推奨しています。
また、フルミストは接種後にワクチンウイルスが周囲の人に伝播する可能性があるため、家庭内などに重度の免疫不全の方がいる場合には、不活化ワクチンを選択することが勧められています。
「生ワクチンだから怖い」という意味ではありません。むしろ、生ワクチンだからこそ、接種する人の状態や周囲の環境を考えて選ぶ必要があるということです。
7. フルミストは「温度管理」も大切です
フルミストは、鼻にシュッと噴霧するだけなので、とても手軽に感じます。しかし、ワクチンである以上、適切な温度管理が必要です。現在の添付文書では、フルミストは2〜8℃で保存し、凍結を避けることとされています。
🏥 当院でも、ワクチン保管に適した冷蔵設備を使用し、温度を継続的に確認するなど、適切な温度管理を行っています。
8. フルミストでは、鼻水や鼻づまりが出ることがあります
フルミストは鼻の粘膜にワクチンを噴霧するため、接種後に鼻水、鼻づまり、咳などの症状がみられることがあります。これは、フルミストが鼻の中に投与されるワクチンであることとも関係しています。多くは一時的なものですが、接種後に鼻水や鼻づまりが出る可能性があることをあらかじめ知っておくと安心です。
9. どれを選べばよいか(まとめ)
| お子さんの状況 | 考え方 |
|---|---|
| 生後6か月〜2歳未満 | 不活化ワクチン |
| 2〜18歳の健康なお子さん | 不活化ワクチン、フルミストのいずれも選択肢 |
| 注射を強く嫌がる | フルミストを検討 |
| 13歳未満で接種回数を少なくしたい | フルミストを検討 |
| 喘息・喘鳴がある | 不活化ワクチンを基本に検討 |
| 免疫不全・免疫抑制治療中 | 不活化ワクチン |
| 無脾症 | 不活化ワクチン |
| 妊娠中 | 不活化ワクチン |
| 家族に重度の免疫不全の方がいる | 不活化ワクチン |
| チメロサールを避けたい | チメロサールフリーの不活化ワクチン |
もちろん、これはあくまで大まかな目安です。年齢だけでなく、これまでの接種歴、喘息や喘鳴の有無、免疫状態、家族構成なども含めて考える必要があります。
「一番いいワクチン」ではなく、「その子に合ったワクチン」を
インフルエンザワクチンについて、「結局、どれが一番いいんですか?」と聞かれることがあります。しかし、すべてのお子さんにとって「一番いいワクチン」が一つ決まっているわけではありません。
たとえば、「注射がどうしても苦手」なら、フルミスト。「喘息がある」なら、不活化ワクチンを基本に考える。「チメロサールをできれば避けたい」なら、チメロサールフリーの不活化ワクチン。というように、その子の状況に合わせて選択することができます。
ワクチンは「どれが一番優れているか」だけで選ぶものではありません。その子にとって、無理なく、適切に、続けられる方法はどれか。そこまで含めて考えることが大切だと思います。
「注射か、フルミストか」「チメロサールフリーにするか」迷われる場合には、お子さんの年齢や体調、これまでの接種歴などを確認しながら、一緒に考えていきましょう。
参考文献
1. 日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会.経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方〜医療機関の皆様へ〜.2024年9月2日.
2. 日本小児科学会.2024/25シーズンのインフルエンザ治療・予防指針.
3. 日本小児科学会.2025/26シーズンのインフルエンザ治療・予防指針.
4. 日本小児科学会.日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール 2026年4月1日版.
5. フルミスト点鼻液 添付文書.第一三共株式会社.PMDA掲載,2026年8月7日改訂.
6. World Health Organization. Vaccines, thiomersal and autism spectrum disorder: evidence review 2010–2025. 3 September 2026.
7. Effectiveness of inactivated and live-attenuated influenza vaccines in children during the 2025–2026 influenza season with genetically distinct influenza A and B viruses. Vaccine. 2026.
8. Kitano T, Yoshida S. Effectiveness of live-attenuated and inactivated influenza vaccines against influenza in 2–17-y-old children, United States, 2022–2025. Human Vaccines & Immunotherapeutics. 2026;22(1):2618341.(※米国の2〜17歳を対象とした研究)
9. Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Influenza vaccination recommendations and FluMist information.
10. U.S. Food and Drug Administration (FDA). FluMist product information.