2026.09.28
エピペンとネフィー、どう違う?― アナフィラキシーに使う2つのアドレナリン製剤
アナフィラキシーの薬といえばエピペン。これまではそう考えてよい状況でした。2026年2月、アドレナリンを鼻から投与する「ネフィー点鼻液」が日本でも発売され、外来でも質問を受けることが増えています。
「ネフィーがあればエピペンはいらない?」「どちらがよく効く?」「子どもにはどちらが使いやすい?」「鼻水や鼻づまりがあっても大丈夫?」「学校で先生に使ってもらえる?」「両方持っておくことはできる?」
今回は、こうした疑問について現時点でわかっていることを整理します。
※この記事は2026年9月時点の情報に基づいています。ネフィーは国内で使われ始めて間もない薬で、処方や学校・救急現場での運用は今後変わる可能性があります。
まず大切なこと:使うべきときに、できるだけ早く使う
違いの話の前に、エピペンでもネフィーでも変わらない原則があります。アナフィラキシーに対するアドレナリンは、必要と判断したら、できるだけ早く使うことが何より重要です。
「もう少し様子をみよう」「抗ヒスタミン薬を飲ませてから考えよう」とためらっているうちに、症状が急に進むことがあります。
もちろん、軽いじんま疹が少し出た程度で使う薬ではありません。だからこそ処方の際に、どんな症状が出たら使うのかを本人・ご家族と医療者で具体的に決めておきます。
そしてその症状が出たら、次の2つを覚えておいてください。
「迷ったら使う」
「できるだけ早く使う」
どちらも中身は同じアドレナリン
エピペンとネフィーは見た目も使い方も大きく違いますが、有効成分はどちらも、アナフィラキシーの第一選択薬であるアドレナリンです。
エピペンは太ももの筋肉に注射し、ネフィーは鼻にスプレーして鼻の粘膜から吸収させます。違いは「アドレナリンを体にどう届けるか」にあります。
| エピペン | ネフィー | |
|---|---|---|
| 投与方法 | 太ももへの筋肉内注射 | 鼻腔内への噴霧 |
| 製剤 | 0.15mg、0.3mg | 1mg、2mg |
| 体重の目安 | 0.15mg:15~30kg未満 0.3mg:30kg以上 |
1mg:15~30kg未満 2mg:30kg以上 |
| 針 | あり | なし |
| 使用経験 | 長い | 国内では2026年2月発売 |
| 操作上の注意 | 誤注射など | 押し上げボタンを最後まで押し切る必要がある |
ネフィー1mgとエピペン0.15mgのように、数字を直接比べることはできません。鼻から吸収される量と、筋肉に注射して吸収される量が違うためです。
⚠️ 15kg未満のお子さんには、ちょうど合う製剤がありません。ネフィー1mgは原則として15kg以上が対象で、15kg未満では量が多すぎるおそれがあります。エピペン0.15mgも同様です。どちらを処方するか、あるいは処方するかどうかは、体重とアナフィラキシーのリスクを考えて個別に判断します。
ネフィーはエピペンと同じくらい効く?
ネフィーの承認にあたっては、血液中のアドレナリン濃度(薬物動態)や、血圧・脈拍への作用(薬力学)を、アドレナリンの筋肉内注射などと比べる試験が行われました。
小児では、15kg以上のアレルギー疾患をもつ4~17歳の42人に、体重に応じてネフィー1mgまたは2mgを投与した試験があります。この試験では、成人にネフィー2mgを投与した場合と比較しても、小児で十分なアドレナリンの血中濃度が得られています。
ただし、実際にアナフィラキシーを起こした患者さんをネフィーとエピペンに無作為に分けて、治療成績を直接比べた試験はありません。命にかかわる緊急の場面で、このような比較試験を行うことは倫理的にも実務的にも難しいためです。
そのため現時点では、「ネフィーとエピペンの臨床的な有効性が同等であることが証明されている」とまでは言えません。
日本の子ども15人に実際に使った研究
実際のアナフィラキシーにネフィーを使用したデータも出てきています。
日本の第3相試験では、食物経口負荷試験で中等度(日本のガイドラインの重症度分類でグレード2)以上のアナフィラキシー症状を起こした6~17歳の15人に、ネフィーが投与されました。30kg未満には1mg、30kg以上には2mgが使用されています。
主要評価項目は、投与15分後までに「最も強い症状(主症状)」が1段階以上改善した人の割合で、15人中11人(73.3%)でした。これは15分という短い時点での評価で、最終的には15人全員で症状が消失し、症状消失までの時間の中央値は16分でした。
最初のアナフィラキシーに対して、2回目のアドレナリン投与が必要になった人はいませんでした。1人は2時間45分後に二相性反応を起こし、アドレナリンの筋肉内注射を受けています。副作用としては、手のふるえが3人(20%)、鼻粘膜の発赤が2人(13.3%)にみられました。
重要な研究ですが、対象は15人と少なく、エピペンと直接比べたものでもありません。
現時点では、「ネフィーの有効性を支持するデータがあり、実際のアナフィラキシーでの使用経験も集まり始めている」というのが正確なところです。
鼻水や鼻づまりがあっても使える?
「アレルギーのときは鼻水も出るのに、鼻から入れて大丈夫なの?」という疑問もあると思います。
ネフィーについては、アレルギー性鼻炎を人工的に起こした状態でも検討されています。2026年に報告された成人43人の試験では、鼻炎・鼻づまりがある状態でネフィーを2回投与しても、アドレナリンの血中濃度や血圧・脈拍への作用は保たれていました。
そのため、一般的なアレルギー性鼻炎による鼻水や鼻づまりがあるというだけで、ネフィーが使えなくなるわけではありません。
一方、鼻茸、鼻の骨折やけがの既往、鼻の手術歴など、鼻の中の構造に影響する状態があると、吸収が変わる可能性があります。その場合は、エピペンなど他の投与方法を検討します。
「針がない=子どもでも簡単」とは限らない
注射針を使わないことは、ネフィーの大きな利点です。注射が怖くてエピペンを使うことをためらってしまう人にとっては、大きな後押しになるかもしれません。
ただ、実際に練習用見本を操作してみると、「鼻に入れて軽く押すだけ」というイメージとは少し違います。押し上げボタンはしっかり最後まで押し切る必要があり、初めての人は「こんなに強く押していいの?」と途中で手を止めることがあります。力を入れた拍子に、ノズルが鼻からずれてしまうこともあります。
実際、海外で行われたネフィーの操作性を調べる研究でも、開発途中の検証では、思春期の参加者で「鼻が小さくてノズルを十分に入れられない」「ボタンを押したときにデバイスが鼻から飛び出す」といった問題がみられました。また、成人でもボタンを押し込めなかった例がありました。
こうした結果をもとに使用説明書が改良され、最終版の説明資材を用いた検証では、10~17歳の思春期患者を含む参加者全員が正しく投与できました。ただし、これは実際のアナフィラキシーではなく模擬的な緊急場面で行われた研究で、デバイスの中には薬剤ではなく空気が入っていました。
なお、この研究で検証されたのは米国の使用説明書で、ノズルを挿入する深さなどの説明は日本のものと一部異なります。
国内の使用説明書では、人差し指と中指でノズルの両側を押さえ、親指で押し上げボタンを押し上げる持ち方が示されています。親指だけで押し切る必要があるため、手の小さな子どもでは特に力が入りにくくなります。
🏥 当院でも、小学生くらいのお子さんに練習用見本を操作してもらうと、自分だけでは最後まで押し切れない場合があります。「ネフィーなら子どもが自分で使える」と決めつけず、処方時に実際に操作してもらい、本人が確実に使えるか確認しています。
鼻のどこまで入れる?
国内の使用説明書では、ノズルの先端1cmほどを鼻の穴に入れ、鼻の穴の内側や外側の壁ではなく、鼻の奥にまっすぐ向けて、カチッと音がするまで押し上げボタンを強めに押すよう案内されています。
噴霧中や噴霧後に鼻をすする必要はなく、すすらないよう注意されています。
⚠️ 海外の説明書では「指が鼻に触れるまで」入れるとされていますが、日本の説明とは異なります。国内の使用説明に従ってください。
体の小さな子どもでは、1cm入れるのも難しいことがあります。無理に押し込まず、どの程度入るかを処方時に練習用見本で一緒に確かめましょう。
1回で良くならなかったら?
アナフィラキシーは、1回のアドレナリンでは十分に改善しないことがあります。
効果が不十分な場合、エピペンは5~15分を目安に2本目を、ネフィーは1回目から10分以降を目安に2本目を使用します。ネフィーの2本目は、1回目と同じ鼻の穴に投与することが望ましいとされています。前述の鼻炎の研究も、この10分間隔・同じ鼻の穴での投与方法で行われています。
⚠️ 米国では2回目の投与時期が日本とは異なります。海外の動画や説明をそのまま日本での使用方法として参考にしないよう注意してください。
⚠️ どちらも「使ったら家で様子をみる」薬ではありません。使用したら救急要請を行い、使い終わった製剤(ネフィーは噴霧器、エピペンは注射器)を持って、必ず医療機関を受診してください。
副作用はどう違う?
動悸、脈が速くなる、手のふるえ、血圧の上昇、頭痛など、アドレナリンそのものによる副作用はどちらにも共通します。
ネフィーではこれに加えて鼻の不快感や粘膜の赤みなどが、エピペンでは注射部位の痛みや、指などへの誤注射がみられることがあります。
ただし、アナフィラキシーは命にかかわる状態です。使用すべき状況で、副作用を心配してアドレナリンの投与を遅らせないようにしてください。
保存方法の違い
エピペンは15~30℃で保存することが望ましく、冷蔵庫などの冷所には入れないよう案内されています。
ネフィーの添付文書上の貯法は「室温保存」です。メーカーの資材では、具体的に「室温(1~30℃)及び遮光」で保管するよう案内されています。また、凍結すると噴霧できなくなるため、凍結は避けます。
低温側ではネフィーの方が許容される範囲が広く、冬場などの保管は少ししやすくなります。一方、夏場の車内のような高温になる場所は、どちらも避けてください。
いざというときにすぐ手に取れる場所に置いておくことも大切です。ネフィーはパックから取り出して携帯ケースに入れ、常に携帯するよう案内されています。使用期限はパックと噴霧器に記載されています。
処方時には1回だけ使える練習用見本が一緒に渡されます。さらにメーカーの「大切なお知らせサービス」に登録すると、使用期限の約1か月前に案内が届き、繰り返し練習できるバネ式の練習用見本と携帯ケースも自宅に届きます(無料)。処方を受けたら、お子さんと一緒にときどき操作方法を確認しておきましょう。
学校や保育園で先生に使ってもらえる?
2026年4月16日、こども家庭庁・文部科学省から、学校等でのネフィーの投与について事務連絡が出されました。
本人が自分で使えない場合でも、次の条件を満たせば、教職員等が本人に代わって投与しても医師法第17条違反にはあたらないとされています。
📌 教職員等が投与できる条件
・医師から事前に書面で指示を受けていること
・保護者から学校等へ具体的に使用を依頼していること
・教職員等が本人であることを確認して、医師の指示に従うこと
・使用後は必ず医療機関を受診させること
薬を学校に預けるだけでは不十分です。次のことまで学校と共有しておきましょう。
・どんな症状で使うのか
・本人が使うのか、先生が使うのか
・どこに保管するのか
・使ったあとどう動くのか
本人がネフィーを確実に押し切れるかどうかも、本人が使用するのか、周囲の大人が使用するのかを決める材料になります。
救急救命士もネフィーを使える?
ここは学校とは事情が違います。
救急救命士については、2009年から、アナフィラキシーのためにあらかじめエピペンを処方されている人が自分で使用できない状態になった場合などに、救急救命士がエピペンを使用できるようになっています。
一方、ネフィーについては、2026年9月現在、救急救命士による使用について同様の通達は出されていません。ネフィーのメーカー公式サイトにも「現時点で、救急救命士の方の通達は当局から発出されておりません」と記載されています(2026年9月確認)。
⚠️ 現時点では、救急救命士がエピペンと同じようにネフィーを使用できることを前提にはできません。ネフィーを選ぶ場合も、2回目の投与にどう備えるかを処方時に相談しておきましょう。本数については次の項目で説明します。
何本処方できる? エピペンとネフィーを両方持てる?
実際の診療では、これは悩ましい問題です。
アナフィラキシーでは2回目の投与が必要になることがあります。また、自宅と学校の両方に置きたい場合や、ネフィーがうまく使用できなかった場合に備えてエピペンも持ちたい場合もあります。
エピペンについては、2026年1月に社会保険診療報酬支払基金が、小児用0.15mgについて「原則として2管まで」認めるという全国統一の審査上の取り扱いを公表しました。
一方、ネフィーについて、保険診療で何本まで処方できるのか、エピペンとネフィーを同時に処方できるのか、学校用と自宅用として複数本処方できるのかについては、2026年9月現在、エピペンと同様の明確な全国統一の審査基準は確認できていません。
医学的に必要と考えられる本数と、保険診療で認められる本数は別の問題です。また、ネフィーとエピペンは投与方法こそ異なりますが、どちらもアナフィラキシーに対してアドレナリンを投与する薬です。バックアップとして両方を持つことが合理的と考えられる場面はありますが、同時に処方した場合の保険診療上の取り扱いも、現時点では明確ではありません。
この点は、新しい審査事例や行政からの情報が明らかになれば、この記事でも更新します。
結局、どちらを選べばいい?
ネフィーが発売されたからといって、全員がエピペンから切り替えた方がよいわけではありません。エピペンには長年の使用経験があり、ネフィーには針を使わないという大きな特徴があります。
選ぶ際には、注射への抵抗感だけでなく、年齢や体格、本人が実際に操作できるか、これまでのアナフィラキシーの経過、鼻の病気や手術歴、学校で誰が使うのか、持ち歩きや保管のしやすさなどを総合的に考えます。
いちばん大事なのは、新しいかどうか、痛くないかどうかではなく、「アナフィラキシーが起きたときに、その子に確実に、できるだけ早く使えるのはどちらか」という視点です。
本人がネフィーを押し切れないのであれば、「針がないから本人が使いやすい」という利点は小さくなります。逆に、注射への恐怖がエピペンを使う大きな壁になっているのであれば、ネフィーは有力な選択肢になります。
冒頭の疑問への答え
「ネフィーがあればエピペンはいらない?」
ネフィーだけを処方することもでき、必ずエピペンと両方を持つ必要があるわけではありません。ただし、本人が確実に操作できるか、2回目の投与にどう備えるかを考えて選びます。
「どちらがよく効く?」
ネフィーの有効性を支持するデータはありますが、実際のアナフィラキシーでエピペンと治療成績を直接比べた試験はありません。
「子どもにはどちらが使いやすい?」
針を使わないネフィーには大きな利点がありますが、押し上げボタンを自分で確実に押し切れるかには個人差があります。処方時に実際に確認します。
「鼻水や鼻づまりがあっても大丈夫?」
一般的なアレルギー性鼻炎であれば使用できると考えられます。鼻の手術歴などがある場合には主治医に相談してください。
「学校で先生に使ってもらえる?」
医師からの書面による指示と保護者からの依頼など、一定の条件を満たせば教職員等が使用できます。
「両方持てる?」
バックアップとして両方を持つことが合理的と考えられる場面はありますが、保険診療上の取り扱いはまだ明確ではありません。
どちらを選ぶにしても、処方を受けたら終わりではありません。どんな症状で使うのか、誰がどう使うのか、1回で良くならなかったらどうするのか、使ったあとどう動くのかを、本人・ご家族・学校・医療者であらかじめ共有しておきましょう。
そして、使うべき症状が出たら、
「迷ったら使う」
「できるだけ早く使う」
これがいちばん大切です。
参考文献・資料
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