2026.10.12
インフルエンザシリーズ第4回:「インフルエンザの薬、飲んだほうがいい?」――抗インフルエンザ薬の効果・使い分けと「48時間以内」の本当の意味
「抗インフルエンザ薬は、できるだけ早く飲ませたほうがいいですか?」
インフルエンザの季節になると、診察室でよく聞かれます。
治療薬には「発症から48時間以内」という目安があります。48時間以内なら、いつ飲んでも同じなのか。それとも早いほどよいのか。そもそも、インフルエンザになったら全員が飲むべき薬なのか。今回は、臨床試験のデータをもとに考えてみます。
📋 まず結論
抗インフルエンザ薬で、症状の続く期間は半日〜1日ほど短くなります。飲めばすぐ治る薬ではありません。
健康なお子さんには必須ではありません。小さなお子さんや、喘息などの持病があるお子さん、呼吸器の症状が強いお子さんには治療をお勧めします。
「48時間」は締切ではなく、効果を期待しやすい時期の目安です。治療するなら早めに始めたほうが効果を得やすいのですが、元気で水分がとれていれば、発熱から半日ほどたってからの受診で間に合います。
異常行動は、薬を飲んでも飲まなくても起こります。発熱から少なくとも2日間は、お子さんを一人にしないでください。
1.そもそも、インフルエンザの薬は必要?
成人の臨床試験をまとめた研究では、検査でインフルエンザと確認された人がオセルタミビル(タミフル®)を飲むと、症状が軽くなるまでの期間が約25時間短くなりました。
小児の臨床試験をまとめた研究では、短縮は約18時間です。喘息のあるお子さんだけを対象にした試験を除くと、約30時間になります。
病気の期間を半日から1日ほど縮める薬、というのが臨床試験からみた位置づけです。
日本小児科学会も、インフルエンザの多くは自然に治るため、抗インフルエンザ薬は必須ではないとしています。そのうえで、幼児、基礎疾患があって重症化しやすいお子さん、呼吸器の症状が強いお子さんには、使うことを推奨しています。
2.喘息のあるお子さんでは?
喘息のあるお子さんでは、熱や咳が早く治まるかどうかと、喘息そのものへの影響とで、研究の結果が少し違ってきます。
小児の臨床試験をまとめた研究では、喘息のあるお子さんだけを対象にした試験で、症状の続く期間ははっきりとは短くなりませんでした。研究者は、喘息のあるお子さんではインフルエンザの症状と喘息の症状の区別が難しく、「治った」と判定しにくいことを理由に挙げています。試験の人数が少なかったことも影響したかもしれません。本当の理由は、まだわかっていません。
一方、喘息のある6〜12歳のお子さんを対象にした臨床試験では、オセルタミビルを飲んだお子さんのほうが肺の機能がよく回復したと報告されています。6〜17歳を対象にした別の試験では、肺の機能に明らかな差はみられませんでした。
熱や咳がどれだけ早く治まるかだけでは、喘息のあるお子さんへの薬の効果は測れません。治療を考えるときは、症状の期間に加えて、喘息の悪化や重症化のリスクも考えます。
🏥 流行期に、喘息のあるお子さんがインフルエンザを強く疑う症状で受診した場合、当院では検査結果だけにとらわれずに治療を検討することがあります。前回、喘息などの持病があるお子さんは早めに受診してくださいとお伝えしたのは、このためです。
3.「薬を飲めば重症化を防げる」の?
この点は、研究によって評価が分かれています。
成人の臨床試験をまとめた2015年の研究では、オセルタミビルで、抗菌薬が必要になる肺や気管支の合併症や入院が減ったと報告されています。一方、2014年のCochraneレビューでは、症状の期間は平均16.8時間短くなったものの、入院が減ることは確認できませんでした。
(25時間と16.8時間の差は、主に対象の違いによるものです。前者は検査でインフルエンザと確認された人、後者はインフルエンザが疑われた人全体を対象にしています。)
小児の臨床試験をまとめた研究でも、肺炎などの合併症ははっきりとは減っていませんでした。入院は件数が少なすぎて評価できていません。中耳炎は約3割減っていました。
健康なお子さんのインフルエンザで、薬が入院や肺炎をどのくらい減らすのか。これは臨床試験だけでは、まだ十分にわかっていません。
それでも、重症化しやすいお子さんへの治療が不要になるわけではありません。日本小児科学会は、重症のお子さんを対象にした研究なども踏まえ、早く使うことで重症化を防ぐ効果が示されているとして、重症化しやすいお子さんへの治療を推奨しています。入院が必要なお子さんには、原則として全員に治療を勧めています。
4.なぜ「48時間以内」なの?
抗インフルエンザ薬は、体の中でウイルスが増えている時期に使うと効果を発揮します。時間がたつと、ウイルスの増殖を抑えても、すでに起きている炎症や症状はあまり変わらなくなります。
そのため、治療は発症から48時間以内に始めるのが基本です。厚生労働省も、48時間以内に使い始めると、熱の出ている期間は通常1〜2日短くなると説明しています。
では、48時間の中でも早いほうがよいのか。48時間を過ぎたら、もう意味はないのか。次の章から順に見ていきます。
5.では、早ければ早いほどいい?
治療が必要なお子さんでは、早めに始めたほうがよいと考えられています。
発症から早い段階で治療を始めた人ほど症状の期間が短かった、という研究があります。この研究の対象は思春期以降の人で、全員が薬を飲んでいました。治療を始めるタイミングを無作為に決めたわけではないので、早く受診した人と遅く受診した人では、症状や体質にもともと違いがあった可能性があります。
小児の臨床試験をまとめた研究では、発症から24時間以内に治療を始めたお子さんで、症状の期間が平均で約23時間短くなりました。24〜48時間で始めたお子さんでは、はっきりした短縮は確認できませんでした。これも治療開始のタイミングを無作為に分けて比べたものではないため、24時間を過ぎると薬が効かなくなるとまでは言えません。
前回の「半日ほど待って受診」との関係
前回、元気で水分がとれていれば、発熱から半日ほどたってからの受診でよいとお伝えしました。半日ほど待っても、多くの場合は発症から24時間以内に治療を始められます。熱が出た直後に検査をして陰性になり、翌日にもう一度受診することになれば、かえって治療開始が遅れます。
一方、生後3か月未満の赤ちゃんや、喘息などの持病があるお子さんは、前回お伝えしたとおり早めに受診してください。
検査のために急いで受診する必要はありません。お子さんの様子に合わせて、受診のタイミングを考えてください。
6.小さな子どもでは?
1〜3歳のお子さんを対象にしたランダム化比較試験があります。インフルエンザA型と確認されたお子さんでは、発症から24時間以内にオセルタミビルを始めると、病気が治るまでの期間(中央値)がプラセボの6.5日に対して3.0日でした。
もっとも、インフルエンザと確認されたお子さんは98人で、A型とB型に分けるとさらに少なくなります。B型でははっきりした効果はみられませんでした。一つの小規模な試験の結果を、すべてのお子さんに当てはめることはできません。
米国感染症学会(IDSA)の指針では、2歳未満のお子さんは重症化しやすいため、抗インフルエンザ薬による治療を勧める対象とされています。
治療を勧める対象だからといって、急いで受診する必要があるとは限りません。生後3か月以上のお子さんで、ぐったりしておらず、水分や母乳・ミルクがいつもどおりとれていれば、夜間救急ではなく、翌朝の診療時間の受診で構わないことがほとんどです。生後3か月未満の赤ちゃんの発熱は、インフルエンザ以外の重い感染症も考える必要があるので、早めに受診してください。呼吸が苦しそう、飲む量が少ない、元気がないといった場合も同じです。
7.48時間を過ぎたら、もう薬は意味がない?
健康な人のふつうのインフルエンザでは、48時間を過ぎてから薬を始めても、症状を短くする効果はあまり期待できません。
発症から48〜119時間後にオセルタミビルを始めたランダム化比較試験では、症状の期間や重さに、はっきりした改善はみられませんでした。この試験は参加者が予定を大きく下回り、134人にとどまっています。効果がないと証明されたというより、小さな効果を見つけるには人数が足りなかった可能性があります。
日本小児科学会は、48時間以内の使用を原則としながら、重症化しやすく症状が長引いている場合は、48時間を過ぎていても投与を考えるとしています。米国感染症学会の指針でも、入院が必要な人や、症状が重い人、症状が悪化している人には、発症からの時間にかかわらず治療を勧めています。
8.どの薬を選べばいい?
日本でよく使われる抗インフルエンザ薬は5種類あります。「一番強い薬」があるわけではありません。年齢、インフルエンザの型、症状、持病、薬を飲めるか・吸入できるかを考えて選びます。
オセルタミビル(タミフル®)
飲み薬で、1日2回、5日間飲みます。生後2週以降の赤ちゃんから使え、乳幼児では基本になる薬です。入院が必要な場合や重症の場合も、飲めるならこの薬が中心になります。副作用として、嘔吐がみられることがあります。
バロキサビル(ゾフルーザ®)
1回飲むだけで治療が終わります。日本小児科学会の指針では、年齢によって推奨が違います。
・12歳以上:ほかの薬と同じように推奨。B型ではほかの薬より有利。
・6〜11歳:B型では使用を提案。A型では慎重に判断。
・5歳以下:積極的には推奨しない(B型では考慮)。
年齢で推奨が分かれるのは、治療中に薬が効きにくい変異ウイルスが出ることがあり、年齢が低いほどその割合が高いためです。B型ではこの変異はまれです。2025年9月には体重20kg未満のお子さん向けの顆粒が承認されましたが、使うかどうかはとくに慎重に検討することとされています。
思春期以降の重症化しやすい人を対象にした試験では、B型でオセルタミビルより症状が早く改善したと報告されています。日本の6〜11歳のお子さんでオセルタミビルと比べた試験では、症状が軽くなるまでの時間はバロキサビルのほうが短い傾向でしたが、熱が下がるまでの時間はほぼ同じでした。人数が少ない試験なので、どちらが優れているかまでは判断できません。
ザナミビル(リレンザ®)
吸入薬で、1日2回、5日間吸入します。4歳以下での使用経験はありません。気管支のけいれんが報告されているため、喘息などがあるお子さんにはお勧めしません。
ラニナミビル(イナビル®)
吸入粉末剤は1回の吸入で治療が終わるので、確実に吸い込めることが前提です。ザナミビルと同じく、喘息のあるお子さんには注意が必要です。粉末をうまく吸えない乳幼児には、ネブライザーで吸入する液体の製剤もあります。
ペラミビル(ラピアクタ®)
点滴で投与する薬です。外来では、ほかの薬が使いにくい場合に考えます。入院が必要で薬を飲めないような重症の場合には、大切な選択肢になります。
🥛 乳製品アレルギーのあるお子さんへ
ザナミビルとラニナミビルの吸入粉末剤には、牛乳のたんぱくを含む乳糖が使われています。乳製品にアレルギーのある方に使って、アナフィラキシーが起きた報告があります。
牛乳アレルギーのあるお子さんは、受診のときに必ずお伝えください。使えるかどうかは、アレルギーの程度などを踏まえて判断します。
なお、ラニナミビルの液体の製剤には乳糖は含まれていません。
9.異常行動について
「タミフルを飲むと異常行動が起きるのでは」という心配も、よく聞きます。
異常行動は、薬の種類や、飲んだかどうかに関係なく報告されています。急に走り出す、部屋から飛び出そうとする、うろうろ歩き回る、といった行動です。インフルエンザそのものによって起こりうると考えられていて、今はすべての抗インフルエンザ薬の添付文書に同じ注意が書かれています。以前は10代へのタミフルの使用を原則控えるとされていましたが、この措置もすでに見直されました。
転落などにつながる重い異常行動は、小学生以上の男の子に多く、発熱から2日以内に起こることが多いとされています。女の子でも起こるので、年齢や性別にかかわらず、次のことに気をつけてください。
⚠️ 発熱から少なくとも2日間は
・お子さんを一人にしない
・玄関や全ての部屋の窓の鍵を確実にかける(補助錠があれば使う)
・ベランダに面していない部屋で寝かせる
・窓に格子のある部屋があれば、その部屋で寝かせる
・一戸建てでは、できるだけ1階で寝かせる
異常行動が心配だからといって、薬を避ける必要はありません。薬を使っても使わなくても、見守りと転落を防ぐ対策が大切です。
10.夜間に受診したほうがいい?
夕方に熱が出て、今は夜10時。朝まで待つと治療の開始が数時間遅れる。そんな場面を考えてみます。
薬を数時間早く飲むためだけに、夜間救急を受診する必要はありません。
⚠️ 一方で、次のような様子があれば、48時間以内かどうかに関係なく受診してください。
・呼吸が苦しそう、呼吸が速い、息をするたびに胸がぺこぺこへこむ
・唇の色が悪い
・水分がとれない、おしっこが半日以上出ない
・ぐったりしている、呼びかけへの反応が鈍い
・何度も吐く
・けいれんがあった(5分以上続く、呼吸がおかしい、意識が戻らない場合は救急車を)
・意味の通らないことを言う、興奮して落ち着かないといった状態が続く、またはくり返す
・喘息などの持病があり、症状が強い
夜に受診するかどうかは、薬を何時間早く飲めるかではなく、今のお子さんの様子が朝まで待てる状態かどうかで判断してください。
11.まとめ
抗インフルエンザ薬について、覚えておいていただきたいのは次の7つです。
1. 抗インフルエンザ薬で、症状の期間は半日〜1日ほど短くなります。
2. 健康なお子さんには必須ではなく、小さなお子さんや持病のあるお子さんには治療をお勧めします。
3. 喘息のあるお子さんでは、症状の期間だけでなく、喘息の悪化や重症化のリスクも考えます。
4. 治療するなら早めが効果的ですが、元気なら半日ほど待って受診しても間に合います。
5. 48時間は締切ではなく、状態によっては48時間を過ぎても治療を考えます。
6. 薬は年齢や型などで使い分けます。乳製品アレルギーがあれば、受診時にお伝えください。
7. 異常行動は薬の有無にかかわらず起こるので、発熱から2日間は見守ってください。
必要なお子さんに、必要な薬を、適切なタイミングで使う。当院では、年齢、症状、持病、インフルエンザの型、発症からの時間を踏まえて、お子さん一人ひとりに合った治療をご相談しています。
次回は、インフルエンザにかかったとき、
「家ではどう過ごせばいい?」
という疑問について、解熱剤の使い方、登園・登校の目安、もう一度受診したほうがよいサインを中心に考えます。
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※2026年10月12日時点の情報に基づいています。