2026.09.20
アレルゲン免疫療法シリーズ第1回:アレルギーを「抑える」だけではない治療
「アレルゲン免疫療法シリーズ」では、この治療についてテーマごとに全7回に分けて解説していきます。第1回となる今回は、治療の全体像についてお伝えします。
アレルギー性鼻炎や花粉症では抗ヒスタミン薬や点鼻薬、喘息では吸入薬、アトピー性皮膚炎では外用薬などを使って症状を抑えます。これらはアレルギー疾患の治療に欠かせないものですが、基本的には「今起きている症状や炎症を抑える」ための治療です。
これに対し、アレルギーの原因となっている物質(アレルゲン)を少量から繰り返し投与し、アレルゲンに対する免疫反応そのものを少しずつ変えていく治療があります。これが「アレルゲン免疫療法(AIT:Allergen Immunotherapy)」です。
「根本治療」という言葉について
アレルゲン免疫療法は、しばしば「アレルギーの根本治療」や「体質改善」と説明されます。大きく間違ってはいませんが、少し補足が必要です。
抗ヒスタミン薬などがアレルギーによって起こる症状を抑える治療であるのに対し、アレルゲン免疫療法は原因となるアレルゲンに対する免疫反応そのものを変化させていく治療です。「体質改善」という言葉を使うなら、
アレルゲンに過剰に反応してしまう免疫の性質を、長い時間をかけて変えていく治療
というのが実態に近い表現です。
ただし「治療をすれば必ず治る」「一度治療すれば一生症状が出ない」という意味での根本治療ではありません。効果には個人差があり、治療終了後も効果が長く続く人がいる一方、再び症状が出る人もいます。それでも、治療中だけ効果がある薬とは異なり、治療を終了した後にも効果が続く可能性があることは、アレルゲン免疫療法の大きな特徴です。
スギ花粉の舌下免疫療法では、3年間治療して終了した後も効果が持続することが臨床試験で確認されています。
対象となる病気
アレルゲン免疫療法について最も多くの研究が行われているのは、アレルギー性鼻炎・花粉症です。日本ではスギ花粉症とダニによるアレルギー性鼻炎に対する舌下免疫療法が広く行われています。皮下免疫療法は治療できるアレルゲンの選択肢がより広く、スギやダニ以外の花粉や動物についても、原因と症状との関係が明確であれば検討できる場合があります。
気管支喘息に対しても有効性が知られており、日本でもダニの皮下免疫療法はアレルギー性鼻炎だけでなく気管支喘息にも承認されています。アトピー性皮膚炎については、特にダニなどの吸入アレルゲンが症状に関与している一部の患者さんで効果が報告されていますが、血液検査でダニが陽性だったというだけで適応になるわけではありません。
喘息やアトピー性皮膚炎に対するアレルゲン免疫療法については、今後の記事で詳しく解説します。
検査陽性がそのまま治療対象にはならない
血液検査や皮膚テストでアレルゲンに対する反応が陽性になることを「感作」といいます。ここはとても大切なところです。
⚠️ 「検査で陽性」=「そのアレルゲンが実際の症状の原因」とは限りません。
血液検査ではダニ、ネコ、イネ科花粉、樹木花粉など多くの項目が陽性でも、実際に困っている症状のほとんどがダニによるもの、ということもあります。逆に、特定の季節や場所で症状がはっきり悪化し、その時期の花粉への感作が確認されていれば、そのアレルゲンが症状に大きく関与している可能性が高いといえます。
免疫療法を考える際には検査結果だけでなく、
いつ、どこで、どのような症状が起こるのか
という経過とアレルゲンへの曝露、検査結果を組み合わせて考えることが重要です。アレルゲンを避けるための環境整備も同時に検討します。
症状の重さだけで受ける治療ではありません
「薬を使っても症状がひどい人が、最後に行う治療」と思われがちですが、必ずしもそうではありません。もちろん、通常の治療を行っても鼻炎や花粉症の症状が強い方はよい適応です。
薬で症状がある程度落ち着いていても、
「毎年薬を使い続けるのを減らしたい」
「長い目でアレルギーそのものに働きかける治療をしたい」
という希望があれば、アレルゲン免疫療法は選択肢になります。現在の症状の強さだけでなく、将来を含めてどのような治療を望むかによって考える治療です。
「舌下」と「皮下」、2つの方法
アレルゲン免疫療法には、アレルゲンを舌の下から投与する「舌下免疫療法(SLIT)」と、皮下注射で投与する「皮下免疫療法(SCIT)」があります。どちらにも特徴があり、治療するアレルゲンや年齢、生活スタイルを考えて選択します。
効果、安全性、治療方法、通院頻度の違いは、次回の記事で詳しく解説します。
何歳から受けられるか
アレルゲン免疫療法は子どもだけの治療ではなく、小児から成人まで幅広い年齢で行われています。当院では、小児については年齢だけでなく、治療方法を理解し安全に数年間続けられるかを考えて開始時期を判断しています。
🏥 舌下免疫療法については、当院では3歳以上を一つの目安として、安全に治療できると判断した場合に限って開始しています。
皮下免疫療法については、原則として6歳以上で、本人が注射による治療を理解し受け入れられる場合に行っています。
3歳になれば全員が治療できるわけではありません。舌下に薬を保持できること、ご家族が毎日の投与を管理できること、副作用が起きたときに適切に対応できることなどを確認して判断します。年齢だけで決めるのではなく、お子さんが数年間の治療を安全に続けられるかを大切にしています。
子どものうちに治療する意味
アレルゲン免疫療法は、現在の鼻炎や花粉症を軽くするだけでなく、アレルギー疾患のその後の経過にも影響することがあります。特に、花粉によるアレルギー性鼻炎のある子どもに免疫療法を行うことで、その後の喘息症状や喘息治療薬の使用が少なくなることが報告されています。病気の長期的な経過そのものに影響するこの作用を「疾患修飾効果」と呼びます。
⚠️ 「早く始めるほどよい」「3歳で始めれば6歳で始めるより将来のアレルギーを防げる」とまで証明されているわけではありません。
アレルギー性鼻炎から喘息、食物アレルギーへ進んでいく「アレルギーマーチ」を免疫療法ですべて防げることが証明されているわけでもありません。
現時点では、治療の適応があるお子さんについて、現在の症状だけでなく将来も考えて選択できる治療と捉えるのがよいでしょう。
治療期間の目安
アレルゲン免疫療法は数週間、数か月で終わる治療ではなく、一般的には3~5年程度の継続を考えます。
📌 長期的な効果を得るには、少なくとも3年程度の治療が重要な目安です。
スギ花粉の舌下免疫療法では、続けることで効果が高まるというデータがあり、3年間治療した臨床試験では終了後も効果が持続することが確認されています。この試験では終了後2年間経過を追い、その間も効果が認められました。国内の実臨床データでは、終了後4年まで効果が維持されている患者さんの報告もあり、3年で終了した場合より4~5年治療した方が終了後の効果がより良好に維持される可能性も示されています。
当院では、治療効果、副作用、治療を続ける負担などをみながら、3~5年間を一つの目安として考えています。
副作用について
⚠️ 舌下免疫療法では口の中の腫れやかゆみ、皮下免疫療法では注射部位の腫れやかゆみなどがみられることがあり、頻度は高くありませんが全身性のアレルギー反応が起こることもあります。
どちらの治療も適応を見極め、副作用について理解したうえで開始することが大切です。
方法ごとの副作用や安全性の違いは、次回の記事で詳しく解説します。
スギとダニ以外の選択肢
日本で今もっとも身近なのはスギとダニの舌下免疫療法ですが、アレルゲン免疫療法そのものはこの2つに限りません。海外ではイネ科花粉、樹木花粉、ネコなど、さまざまなアレルゲンに対する免疫療法が行われています。日本でも皮下免疫療法では国内の治療用製剤や、必要に応じて海外の治療用アレルゲン製剤を使用して治療を検討できる場合があります。
検査で陽性になったアレルゲンを何でも治療すればよいわけではなく、実際の症状にどの程度関係しているか、その治療に十分な有効性の根拠があるかを確認したうえで判断する必要があります。
数年間かけて将来を考える治療
アレルゲン免疫療法は、すぐに症状を消してくれる治療ではありません。毎日薬を続けたり、定期的に注射を受けたりしながら数年間続けます。その一方で、
今ある症状を軽くするだけでなく、原因となるアレルゲンに対する免疫反応そのものに働きかけ、治療終了後にも効果が続くことを目指せる
という、ほかのアレルギー治療にはない特徴があります。
大切なのは、検査が陽性だからという理由だけで治療を始めるのではなく、そのアレルゲンが本当に症状の原因になっているのかを見極めること。そして舌下・皮下それぞれの特徴を理解したうえで、無理なく数年間続けられる方法を選ぶことです。
🏥 次回は、「舌下免疫療法(SLIT)」と「皮下免疫療法(SCIT)」の違いについて、効果、安全性、治療方法、通院頻度、続けやすさを比較しながら詳しく解説します。
参考文献
1. Gotoh M, Yonekura S, Imai T, et al. Long-Term Efficacy and Dose-Finding Trial of Japanese Cedar Pollen Sublingual Immunotherapy Tablet. J Allergy Clin Immunol Pract. 2019;7:1287-1297.e8.
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